J・R・R・トールキン=著 山本史郎=訳 / 原書房
仔犬が主人公のトールキンの冒険物語。
ローヴァーという名前の本物の仔犬が、魔法によっておもちゃの犬に変えられ、この魔法をかけた魔法使いを探しながら、カモメや竜や鯨、月の男や海の王者と出会いながら奇想天外な冒険をし、再び本物の犬に戻る、というお話です。
トールキンは「指輪物語」や「ホビットの冒険」などで有名な作家ですが、この「仔犬のローヴァーの冒険」は、前に挙げた2作品に比べると詩的な雰囲気の強い作品です。 おもちゃに姿を変えられたローヴァーが旅をする、月の世界や海の世界は、静かで厳かで、とても神秘的な世界です。 そして、月にも海にもローヴァーのような犬が暮らしており、名前も同じ「ローヴァー」といいます。後からやって来たおもちゃ犬のローヴァーは(同じ場所で二匹ともローヴァーでは困るので)“でたらめローヴァー(冒険家)”という意味の「ロヴァランダム」という名前で呼ばれることになります。 私としては、後者の「ロヴァランダム」という名前の方が好きですけどね。(ローヴァーはきっと嫌がるとは思いますが。)
トールキンの作品にはよく竜が登場しますが、この物語では、竜退治といった冒険活劇というよりは、不思議な世界を旅する物語といったカンジです。 本来この物語は、トールキンの息子が、大切にしていたお気に入りの犬のおもちゃをなくしてしまったのをなぐさめ、気を紛らわせるために即興で作られたお話が元になっているそうです。だからか、作品全体に優しい空気があふれているような気がします。
一風変わった、個性的な魔法使い達もたくさん登場する、「仔犬のローヴァーの冒険」。 夏の夜、涼みながら読書してみるのはいかかでしょう? もしかしたら、夢の中でローヴァーが旅した世界で私達も遊べるかもしれませんよ。
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Date: 2005/07/09(土)
No.25
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