7話あたり(前半)  2007/01/13(土)
7話あたり(後半)  2007/01/13(土)
特派  2007/01/10(水)
幼少期  2007/01/08(月)




7話あたり(前半)
幼時から、しばしば俺はスザクが自分の為に死ぬことを想像した。
それは執着心の表れだったのかもしれないし、こちらの話をてこでも聞き容れないあいつへの復讐なのかもしれなかった。いずれにせよ悪習である。
夢想の中のスザクは俺を守って死ぬ。撃たれ、斬られ、潰され、何度も死んだ。驚く俺の足下で、頭上で、遥か遠く離れた地で。死ねば夢想は終わる。そこで満足するらしかった。
そのようなことを考える自分を省みないわけではなかった。だが、酌量を与えるのは容易かった。ひとつかふたつの問答で済んだ。所詮は子どもの夢見がちな空想だからである。リアリティがまるでない。あるのは「満足するらしい自分」という認識のみである。お世辞にも恵まれた幼少時代だったとは言えない俺のその哀れな行為はその愚かさと哀れさこそが最大の武器であった。


最近、その夢想が急速に現実味を帯びた。
足りなかったリアリティが加わったことによって状況は一変した。
変わってしまった俺は満足していた頃の感覚をもう思い出すことが出来ないことを知った。ひたすら惜しいと思った。あれはとてもいいものだったという認識だけが残った。


「スザク、俺のために死んでくれないか?」

夕方の生徒会室。
猫のアーサーとじゃれ合っていたスザクが振り返った。
「ルルーシュ?」
意図を探るように上目でこちらの様子を窺う。
ああ見られている。今スザクに見られているのだ。そう思うとえもいわれぬ心持になった。忘れてしまったあれもこんな感じだっただろうか。
「…………」
俺の反応が無いことに何かを感じたのか、スザクが口を開きかけたとき、
「なんだルルーシュ!プロポーズか!?」
スザクの上体が大きく前傾して、その後ろから灰色がかった蒼い髪が姿を現した。アーサーが逃げた。
「…ああ。昨日テレビでやってたんだ。何だったかな、女の子が萌える台詞ベスト10、みたいなやつ」
微笑みながら答えると「何だテレビなのー!?」といたるところから声があがった。
「で、何でそれをスザクに言ったんだ?」
「スザクなら面白い反応が返ってきそうじゃないか」
真顔で言った。この場合それが相手のリアクションの起爆装置になる。
「確かに!!」
「もー!どうして邪魔したのよリヴァル!」
「だって!つっこむだろうあれは!」
「そうよそうよ!聞き損ねちゃったじゃない!」
四方八方から上がる声にすっと顔の緊張を緩めた。自然前へ出る下唇が空気に触れた。スザクを見た。



Date: 2007/01/13(土) No.5


7話あたり(後半)
皆に言えよ言ってよ言っちゃいなさいよと詰め寄られて壁際へ追いやられたスザクは気の毒なほど眉尻を下げて「え、でも、あの」と繰り返していた。あの様子ではそのうち言うだろう。
「………」
急速に心が冷えた。
憶測が一緒に連れてきた別の憶測が原因だとすぐに知れた。口に出すのも憚れる程幼稚な内容だが、ここしばらくずっと頭からこべり付いて離れないシンク周りの錆のようなそれは。
そんなどうでもいいような、ことわってもさしつかえないようなことはききいれるくせに。なんで。
俺からの誘いを断ったのかと。
自分の言葉を受け容れてもらえない、整理の途中にそう言い換えて、最低なものを思い出した。
ひとつこたえが出た。


最近ずっと瞼を閉じたときに見えるものがあった。
それは決まってスザクのことを考えているときで、真っ暗闇の中、小さなひとつの目があった。一対ではない。ひとつである。黒目が随分小さい。まるでアニメーションのように現実味の無いその目は何をするでもなく、そこに浮かんでいた。ときどき暇を持て余したように見開いたりした。そうしてこちらがそれに対して何らかの興味を持ったとき、ものすごい勢いでこちらに向かってこようとする動きを見せる。瞬間的に僅かな恐怖が芽生えると目は消え、また元の位置に戻って瞬きしている。
そうか、あれは父か。


酷く陰鬱な気分だったが、合点のいくこたえが出たこととスザクが直接原因でなかったことがマラソン中のそよ風のごとく俺に力を与えた。
もしもスザクがまた大怪我をしたらその枕元に立って笑ってやろうと思った。何だまだ生きてたのか。だから言ったじゃないか、軍なんてやめろって。俺の話を聞かないからだと。
あいつはそれでも聞き容れはしないだろう。ああ、あいつの前では俺もその他大勢も等しくひとつの命だという扱いも気に入らない。思えば反発ばかりだ。
だがそんなスザクが俺の為に死んだら。
場面が飛んだ。スザクが俺の為に死んだ後のことが浮かんだ。これは初めてのことだ。まずは悲嘆に暮れる自分に付き合ってやろう。それから後を追いかければいい。2日くらいは掛かるとみておいた方がいいかな。


皆の輪に入ると、先程よりもオーバーに身振りまで付けて宣言した。
「スザク、俺の為に死んでくれないか?」
周囲から歓声があがった。







余命2日/ルルスザ
Date: 2007/01/13(土) No.4


特派

「えー、何、スザクくん泣いてるのー?」
ぼろぼろと大粒の涙を零していた少年はひく、としゃくり上げながら振り返った。日頃幼いと思っていた顔立ちが赤い擦過傷のため益々幼く見えた。
「ロイドさん…」
如何にも通りの悪そうな鼻声が笑いを誘った。
かつかつと距離を詰めればきらきらと水の膜が乱反射して純粋に綺麗だと思った。
「君さー、もう大きいんだからこんな人目があるところで露骨に泣くのはどうかと思うよー。それなりの既視感と人並みの良心があれば誰だって声を掛けたくなるに決まってるじゃない。あ、それともそれが狙い?君って演技性だっけ?それにしてはひごろふごあっ!!!」
調子に乗って捲くし立てていると、何処からともなく飛んできた鈍器が横っ面をはたいて、顔、肘、肩と順に鈍い衝撃が身体を打った。最後に側頭葉を強打した。
平衡感覚を失った視界の先、遠くの方に重く静かに頓挫する塊が見えた。あれが凶器に違いない。それにしても随分とぼやけて見える。打ち所が悪かったのだろうか。あ、メガネがない。
「どうしてロイドさんはそうやっていつもいつもスザクくんをいじめるんですか!」
まるでお母さんか学級委員長のような口振りに顔を上げると、腰に手をあてた優秀な部下が目を吊り上げて怒っていた。
「別にいじめてたわけじゃないよー」
よろよろと痛む腕を庇いながら立ち上がって釈明する。
「自分の意見と相手の意見の利害を調整しながら相互の推測の上に成り立つ一段上の相互理解を目指すのがコミニュケーションの基本でしょー。僕はいつだって全面に自分の意見を出してるんだからあとは相手がぼくあああごめんなさいごめんなさい殴らないで」
掴まれた胸倉がデッドライン。しかし引き剥がすことも出来ず、ひたすら謝る。胸の内の温度が数度下がるのは紛れも泣く恐怖によるものだ。
「ごめんなさいねスザクくん」
「あ、いえ…」
半ば呆然と事の成り行きを見守っていた少年は、先程の剣幕が嘘のように柔らかい笑みを浮かべる上司に困惑した視線を向けた。
「あ、そうだ、スザクくん、緑茶の味はどうだったかしら」
「えっ!?」
頓狂な声に視線を向ければ、その大きな瞳がある一点を見てまた戻ってくるところだった。一瞬のことだったが、タイミング的にシンクロするようにその視線の先を追うこととなり、彼が何を見たのかも自ずと知れた。白いマグカップだった。
「へえー、緑茶を淹れたのかい」
「ええ、ロイドさんも飲まれます?すぐに淹れてきますよ」
「いや、僕はこれでいいよ。まだ余ってるみたいだから」
そう言ってマグカップを持ち上げると、未だ目を真っ赤に腫らしたままの少年が「あっ」と慌てたように顔を上げた。それを見て「おや?」と思いはしたものの、とりたてて止められるわけでもないのでカップを口元に寄せた。
「一応資料の通りに淹れてみたんですけど、紅茶やコーヒーとは勝手が違うからよく分からなくて、少し濃くなってしまったかも」
そんな説明を受けながらいざカップを傾けると、ハラハラと見守る少年が目に入り、それを横目に更に傾けたとき、唐突に脳天を針で刺されたような痛みが走った。驚いて顔を背けると、鼻の奥がツンと痛んだ。これは。馴染みは無いが、まったく覚えの無い感覚というわけでもなかった。
「セシルくん、何これ」
「何って…緑茶ですよ?あ、資料程綺麗な緑色にならなくて、最後に」
「わさび入れたでしょ」
「はい」
無邪気に頷くその後ろで少年は打ちひしがれように項垂れた。その様子が何とも気の毒で可愛らしかった。
「はーい、犯人判明ー」
「え?」
「スザクくんを泣かしたのはセシルくんでしたー」
「ええっ!?」
「セシルくーん、新しいものに挑戦しようとする心意気は買うけど、ものには限度ってものがあるでしょー」
わさび入 れ す ぎ。
そう言ってマグカップを差し出すと、くん、と鼻を近付けて眉を顰めた。そうして瞬く間に髪と同じくらい真っ青になって真っ赤な目の少年の肩をがくがくと揺すった。
「ごめんなさいスザクくん!!ああどうしましょう…!」
「セ、セシルさ…っ落ち、落ち着いてくださっ、だっ大丈夫ですっからっ」
「何言ってるのー、まだ目ぇ真っ赤じゃない。あは♪うさぎみたーい」
横槍を入れると「ロイドさん!」と悲鳴に近い声があがった。

 


ただいま午後3時/特派
Date: 2007/01/10(水) No.2


幼少期
けんらんごうかなものをみるとちちをおもいだす。
そう言うとスザクは目に見えて困惑した表情を浮かべた。
それだけでじりじりと臓腑を低温でゆっくりと焼いていくような痛みが和らぐのだから、我ながら現金な身体だと思った。
困らせたかったわけではないが、わざわざ取り繕うのも何故か躊躇われたため、そのまま肌滑りの良い布に額を擦りつけた。
スザクはどうしたものか考えあぐねた結果、とりあえず次のアクションがあるまで積極的な働きかけは慎もうと思ったらしい。
触れている部分の筋肉が弛緩したので、その間合いに滑り込むようにすかさず距離を詰めた。
靴の下の土がじゃり、と音を立て、土や木や水ではない匂いが脳を刺した。スザクの汗の匂いだとすぐに合点がいった。
先程まで野山を駆け回っていた身体は双方ともじっとりと汗ばみ、意識した途端に身体は熱くなり、周囲の蝉の声が増した気がした。
責め立てられている。蝉の腹と羽の摩擦音が聴覚の外堀を埋めるようだった。
(なんだ、おれはあまえたかったのか)
暑さで茹だる脳が弾き出した結論は一種の後ろめたさと羞恥を呼び起こした。
身を撚ることでそれらから逃れようとすると、それが更なる甘えとして伝わったらしい。柔らかいスザクの手が背中を撫ぜ、カッと熱くなった身体は、しかし瞬く間にその心地良さに屈服してしまい、陶酔やら情けなさやら恥ずかしさやらが全身を浸した。
さわさわと風が木の葉を揺らし、釣られるようにスザクが上の方を向いたのが分かった。
「あついねぇ」
「そうだな…」
頭上から降ってくる声はこちらに向けられているというよりは独り言のように謳い上げられた。ころころと鈴が鳴るようで、母やナナリーの次か同じくらいに好きな音だった。スザクの声に形容された事物はどれも一様に白いもやのようにものを纏っていて、例えるならそれは先日食べた「わたがし」とかいうもののようだった。
わたがしは甘くておいしかった。手がべたべたするのが難点だが、口の中に入れるとあっという間に消える感覚にナナリーとふたりで驚きの声をあげた。
そのときのことを思い出して弧を描く口元のままごろりと寝返りを打つと、先程まで鼻先にあったスザクの袴が後頭部の下敷きになって、明るくなった視界の中で大きな緑色の目の光が注がれる。
「スザクがそのままこえがわりしなければいいのに」
「ええっ?」
スザクはうろたえた。
何もそんなに驚かなくていいのにと思う反面、だからスザクと話すのは好きだ、とも思った。スザクと話しているといつも二つ以上の思いが喚起した。
「こえがわり…こえがわりかぁ…」
しばし考え込むようにしていたスザクは、ふ、と何かを思いついたらしかった。
「どうしてとつぜんそんなことを?」
「おれはスザクのこえがすきなんだ。あくいがぜんぜんない」
「あくい?」
「なにをみてもきいてもぜんぶをあいしているようにきこえる」
「そ、うなのかなぁ…」
考え込むようにしているスザクをじっと見やる。好意を持っているものにその旨を伝えることには当然拒絶を予測した抵抗があるが、今はスザクの作り上げた空気のお陰でそれも許される気がしたのだ。
(そうだ、おれはつねにきょようをほっしている)
「あ、」
何か思い当たるところがあったのか、スザクが声をあげた。
「じゃあきっとぼくはそれらぜんぶがすきなんだよ」
木の葉の間から差す僅かな夏の日差しが翳り、スザクの顔も翳る。
突然、何かしらの行動を起こさねばならぬ、という使命感が頭を擡げた。戸惑う間もなく、使命感は内なる願望と結託し、あっという間に、まるで初めからそうしたかったかのように希望へと成り済ましてしまった。
勢い良く立ち上がると、驚いた顔で見上げるスザクを見た。額に張り付いた茶色の髪の毛の横を汗が伝って、口元を通り、首筋まで辿り着いて鎖骨の上で止まったのを見た。
「ならおれがスザクのまわりからきらいなものをけしてやる。いつもすきなものでいっぱいにしてやる」
そのときちょうど太陽が戻ってきて、頬や肩が熱くなった。日の光があたっているらしい。
眩しそうに目を瞬かせたスザクは、翳していた手を下ろして
「ルルーシュはやっぱりおうじさまなんだね」
一等好きな声音で笑った。



いったりきたり/ルルスザ
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ルル様は弱る度にスザクにプロポーズまがいのことをしてる気がする。
Date: 2007/01/08(月) No.1



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