幼時から、しばしば俺はスザクが自分の為に死ぬことを想像した。 それは執着心の表れだったのかもしれないし、こちらの話をてこでも聞き容れないあいつへの復讐なのかもしれなかった。いずれにせよ悪習である。 夢想の中のスザクは俺を守って死ぬ。撃たれ、斬られ、潰され、何度も死んだ。驚く俺の足下で、頭上で、遥か遠く離れた地で。死ねば夢想は終わる。そこで満足するらしかった。 そのようなことを考える自分を省みないわけではなかった。だが、酌量を与えるのは容易かった。ひとつかふたつの問答で済んだ。所詮は子どもの夢見がちな空想だからである。リアリティがまるでない。あるのは「満足するらしい自分」という認識のみである。お世辞にも恵まれた幼少時代だったとは言えない俺のその哀れな行為はその愚かさと哀れさこそが最大の武器であった。
最近、その夢想が急速に現実味を帯びた。 足りなかったリアリティが加わったことによって状況は一変した。 変わってしまった俺は満足していた頃の感覚をもう思い出すことが出来ないことを知った。ひたすら惜しいと思った。あれはとてもいいものだったという認識だけが残った。
「スザク、俺のために死んでくれないか?」
夕方の生徒会室。 猫のアーサーとじゃれ合っていたスザクが振り返った。 「ルルーシュ?」 意図を探るように上目でこちらの様子を窺う。 ああ見られている。今スザクに見られているのだ。そう思うとえもいわれぬ心持になった。忘れてしまったあれもこんな感じだっただろうか。 「…………」 俺の反応が無いことに何かを感じたのか、スザクが口を開きかけたとき、 「なんだルルーシュ!プロポーズか!?」 スザクの上体が大きく前傾して、その後ろから灰色がかった蒼い髪が姿を現した。アーサーが逃げた。 「…ああ。昨日テレビでやってたんだ。何だったかな、女の子が萌える台詞ベスト10、みたいなやつ」 微笑みながら答えると「何だテレビなのー!?」といたるところから声があがった。 「で、何でそれをスザクに言ったんだ?」 「スザクなら面白い反応が返ってきそうじゃないか」 真顔で言った。この場合それが相手のリアクションの起爆装置になる。 「確かに!!」 「もー!どうして邪魔したのよリヴァル!」 「だって!つっこむだろうあれは!」 「そうよそうよ!聞き損ねちゃったじゃない!」 四方八方から上がる声にすっと顔の緊張を緩めた。自然前へ出る下唇が空気に触れた。スザクを見た。
|
Date: 2007/01/13(土)
No.5
|
|