CH’定点観測

世の中のリアルタイムな動きや
店主の身の回りの出来事を
CHキャラで斬っていきたいと思います



Navigator's Seat  2009/12/30(水)
1993.12/注意事項  2009/12/29(火)
1992.12.28/新妻のジレンマ  2009/12/28(月)
掃除と鮭とコーヒーフィルター  2009/12/27(日)




Navigator's Seat
助手席にがっくりと座り込んでいた。
今日もまたいつものように攫われて撩に助け出された帰り道。
今度こそはと思いながらも、その今度も同じ目に遭う
それの繰り返し。
その度ごとに撩も多勢に無勢の中に飛び込まざるを得なくなる。
いつものようにかすり傷一つ負わずに
奴らを完膚なきまでに叩き潰したからよかったものの、
相手がそんな雑魚ばかりだとは限らない。
いつ撩ですら歯が立たないような強敵の手に陥ちるかもしれない。
そうなったら――あたしのせいだ、
撩にもしものことがあったら。

――あたしは撩の足を引っ張ってばかりだ。
パートナーとして力になるどころか
危険にばかり曝している。
撩のそばにいる資格なんてあたしには無い。
いない方が彼のためなのだから――

「――おり、香!」

運転席から激しい声が飛んだ。

「左を見ろって言っただろうが」

クーパーが止まっているのは見通しの悪いT字路。
信号も無いここでは目視で車の往来を確かめなければならない。

「何ぼんやり助手席に座ってるんだ。
そこに座ってるなら左側を見るのがお前の役目だろ。
そうすりゃ半分の時間で曲がれるんだから」

そうだ、あたしには果たさなきゃならない役目がある
たとえそれが、たかだか左側から来る車の確認だとしても。
それを果たすことで、少しでも撩の役に立てるのなら。

「左オーライ」
「ラジャ、右オーライ」

と言うと撩はアパートへとウィンカーを出した。
Date: 2009/12/30(水) No.152


1993.12/注意事項
かずえさんに勧められてインフルエンザの予防接種を受けることになった。
「一応、決まりだから」と渡された問診票。
そこには様々な既往症などが記されてあって
そこにチェックを入れた人はほぼ自動的に
ドクターストップがかかるというのはあたしでも判る。
その中に、女性だけの項目として

「現在、妊娠している、または妊娠している可能性がある」

というのがあった。

もちろん既往症なんて一つも当てはまらないから
その項目も無意識のうちに「いいえ」にチェックを入れようとしたが
――厳密に言えば「はい」なのだ、あたしは。

考えてみれば、ほぼ毎日といっていいほど
撩に求められるままに夜を共にしてきた。
だから可能性として、そういうことがあったって何ら不思議ではない。
次の生理が来るまでシロとは言い切れないのだ。
幸いなことに今まで不順らしい不順に見舞われたことはない。
カレンダーに印をつけたように毎月きっかりその日は訪れる。
だが、それがもし遅れたら――
きっと、そのときになって初めて慌てふためくことだろう。
今この瞬間、あたしの身体の中に小さな生命が
誰にも気づかれることなく息づいているかもしれないのに。

結局、そんな現実から目を背けているにすぎないのだ。
確たる証拠を突きつけられるまで見て見ぬふりをしているだけなのだ。
もし、そうだったら――それを考えるのが怖いから。

もしも妊娠していたら、あたしは撩のそばにいられない。
いつかあいつが言っていた、家族をこれ以上持てないと。
あたし一人を守るだけで精一杯なのに、さらに子供だなんて――
最悪の決断すら考えざるを得ないかもしれなくなる
ただ、撩のそばに居たいがために。

そんな醜い自分を思い描きたくないから、結論はいつも先延ばし。
でも、そろそろ考えなくちゃいけない
手遅れになる前に――

そんな現実に目をつぶって、「いいえ」にチェックを入れた。
Date: 2009/12/29(火) No.150


1992.12.28/新妻のジレンマ
昼下がりのCat's Eye、女三人寄ればかしましいというが
4人も集まれば話に花が咲くのはいつものことで。

「はぁ・・・」

文字どおりの茶飲み話(コーヒー飲み話?)が不意に途切れて
ため息をついたのは冴子さん。

「どうしたの、いったい」
「それがね、お雑煮をどうしようかなぁって」
「ああ」

美樹さんが納得したように相槌をうつ。
冴子さんにとってはアニキと過ごす新婚最初のお正月なのだから。

「やっぱり彼の実家に合わせて作った方がいいのかしら」
「冴子さん家のお雑煮ってどんな風なの?」

かずえさんが尋ねた。

「どんな風って、普通の東京風よ。
敢えていうなら、ちゃんと鶏ガラから出汁をとるぐらいで」
「うわぁ、けっこう本格的」

思わず感嘆の声が上がる。

「あっ、そうだ。香さんはどうなの!?」

思い出したように詰め寄られた。無理もない、
あたしの作るお雑煮はアニキから教わったものなのだから。

「んー、わりと普通だと思うわよ。
醤油ベースで炒り子出汁で、具はにんじん、里芋、大根、ブリ――」
「ブリ入れるの?」
「ええ、お父さんの実家の味らしいんだけど
本当はアゴっていってトビウオで出汁をとるんだけど
手に入らないから炒り子だし、お餅だって
丸餅らしいんだけど、切り餅を柔らかく煮るだけだもの」
「へぇ、うちはちゃんと丸餅入れてるわよ」

と言ったのは美樹さん。

「ファルコンから教えてもらったんだけどね、
彼の家では代々干しエビで出汁をとるのよ。
干しエビっていってもちゃんとしたクルマエビみたいなので。
それがお椀の上にどんって乗ってるんだけど
それが無いとファルコンったら――」
「怒るの?」
「怒りはしないけど、機嫌は良くないわね。
正月早々機嫌曲げさせたくないからちゃんと作るけど」
「偉いわぁ・・・」

嫁の鑑といった美樹さんの様子に
冴子さんもすっかり感服しきりだ。

「ところでかずえさんは?」

と話を振ってみる。

「うちの実家は白味噌仕立てでね、お餅の中に餡子が入ってるの」

それを今年のお正月はミックに作ってあげたらしい。
あたしたちの中では一番の変わり種だが、彼は喜んでくれたらしい。

「でも、あたしたちはむしろレアケースだから」

と美樹さんが言う。

「あたしは自分自身が、香さんやかずえさんはパートナーが
お雑煮ってのを知らないから片方のを作ってるだけであって、
普通のカップルだったらお互いに家庭の味ってのがあるし、
それが溶け合って我が家の味になってくんじゃないのかしら」
「ええ・・・そうね。とりあえず頑張ってみるわ」

そう冴子さんはうつむき加減だった顔をあげた。

その後、あたしはナンパに精を出す撩を連れ出して
お正月の買い出しに出かけた帰り道。

「ねえ撩、たまには違うお雑煮も食べてみたいって思う?」

あたしの作るお雑煮がスタンダードってわけじゃない。
だから一度はちゃんとしたのを食べさせた方がいいのかもしれないけど、

「違うお雑煮って、あれがお雑煮なんじゃないのか?」

そう、あいつはあたしの作ったお雑煮しか知らないのだ。
だからあれがこの世で唯一無二のお雑煮だと思い込んでいる
小さい頃のあたしみたいに。

それじゃ来年もいつものお雑煮を作ろう、
お醤油ベースで炒り子出汁の、お餅を柔らかく煮てブリの入った
それがあたしたちの味なんだから。

買い物袋の中には、おせちの材料と一緒に
炒り子とブリの切り身が揺れていた。
Date: 2009/12/28(月) No.144


掃除と鮭とコーヒーフィルター
何とか今年も無事に越せそうだ。
というのも、「今の状況であたしたち年が越せると思ってんの?」と
毎年恒例の脅し文句で受けたくもない男の依頼を引き受けて
どうにか懐だけは暖まったのだから。

その依頼も無事終わり、今年最後の週末は
なんとか大掃除と正月の準備に充てることができた。
そんなの撩ちゃんパス〜、といきたいところだが
早々に高いところの掃除を押しつけられた、
「あんただったら脚立要らないでしょ」と。
確かに、俺たちの部屋はボロのわりには天井が高いのだが
それにしてもまったく、男を踏み台にしやがって【違】

大掃除を押しつけて香は悠々かと思えば
スーパーで安かったという新巻鮭を
さっきから懸命に鱗を剥いでいる。
それを担いで帰ってきたときには木彫りの熊かと思ったが
下ろして切り身にして冷凍しておくらしい。
そんな魚よりは肉だろ肉!と言いたいところだが

「頭はあとで粕汁にしましょ。あったまるわよ」

とすっかり乗り気だ。というわけで香は今
観客のいない鮭の解体ショーに挑んでる真っ最中だ。
だが、こっちの仕事も一息つきそうだし
時計を見ればもう3時半、
そろそろ休憩にしてもいいんじゃないか。
あいつだってさっきから固い背骨に悪戦苦闘しているのだから。

この様子じゃしばらく香は手を離せそうにない。
なのでコーヒーミルと豆を取り出す。
たまには俺が淹れてやろうじゃないか。ん〜、俺っていいダンナ♪
だが、二人分の豆が挽き上がっても肝心のドリッパーが見当たらない。

我が家じゃコーヒーは大抵ペーパードリップで淹れる。
それが一番手間がかからずに旨いコーヒーが飲めるのだ。
唯一の難点はコーヒーを淹れるたびに
フィルターを使い捨てなければならないことだが、
同じようなやり方のネルドリップでは
あのケチの権化が音を上げるくらい後始末が面倒なのだ。
だから100円均一で安いフィルターを買ってくるなど
できるだけの努力はしているようなのだが。

「お〜い、ドリッパーどこだぁ?」
「あれ、食器棚の中に置いてない?」

道理で見つからなかったわけだ
洗った食器のとこを探していたのだから。
ドリッパーはすぐ見つかったが
ペーパーフィルターはいつも入ってる引き出しの中には無かった。

「ああ、それなら戸棚のとこ見てみて」
「戸棚って、戸棚のどこだよ」
「ったく、もう」

痺れを切らすと、香は薄手のゴム手袋を脱ぎ捨て
戸棚の中にしまってあった小さな箱を取り出した。
その中には金属製の小さな器のようなもの。
それは大きさ、形状ともにドリッパーにぴったり収まりそうだ。

「で、どうすんだ?」
「あー、もお、いいから見てて」

と言うと香はそれをドリッパーの中にセットすると
その中に挽いたばかりの豆を入れ、サーバーの上に置くと
いつものようにお湯を注ぎ入れた。

「何度も使い回せるフィルターなんだって。
前からずっともったいないと思ってたし
ちょっと高かったけどそのうち元が取れるかなぁと思って」

思い切って買ってしまったらしい。

「でも結局、コーヒー淹れたのあたしじゃない」

そう解体ショーを途中で一息入れた香が呟く。
こっちだってたまにはいいとこ見せたかったけど
これじゃ逆に使えない亭主もいいとこだ。
まったく、慣れないことはするもんじゃない。

「でも、その心意気だけは買ってやろうか」
「だろ?豆だって挽いてやったの俺なんだぜ」

これが実際淹れるより重労働なんだから。

「その代わり、夜はしっかり労ってくれるんだろうなぁ?」

そう言われるなり、香の顔が真っ赤に噴火した。
その約束で引き受けたんだからな、大掃除。
Date: 2009/12/27(日) No.140



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